散文 #3
最後にちゃんと他人に好きと言った日のことを思い出す。
秋の早朝ベランダで
部屋で未だ眠るシェアメイトを起こさないように窓をきっちり閉め切って
わたしは泣きながら震える手で携帯電話を握りしめていた。
どんな言葉を放ったのかはもう覚えていないけれど
相手の潔い告白に振られているにも関わらず清々しい気持ちになったことは覚えている。
数ヶ月後のこと
相手から時間を巻き戻すような電話が来たけれど
その頃のわたしはむしろ早送りのような毎日で
自ら好きと言ったあの日のことを思い出そうにも
まるで自分じゃない女優が演じるテレビのワンシーンを観ているかのような
遠い遠い、不思議な気分で
ああこれが失恋か、と思ったことも覚えている。
自分の気持ちが砕かれることよりずっと
確かにここにあった筈の強い気持ちがすうっと失われていくことを知るのが怖く
もうしばらくは他人に好きと言えていない。