「いつだって帰ってきていいのよ」とハハはいった
「いつだって帰ってきていいのよ」
とハハが言う言葉が、怖くなったのはいつからだろう。
生まれ育った環境から出ていくことは恐いものだろう、
肩肘はらずに無理せずに、けして傷つかないわたしの箱に閉じ込めてあげるから
という聞こえない声が聞こえ始めたのは彼女が何かにつけてその言葉を頻発するからだろう。
「いつだって帰ってきていいのよ」
と自分が言うようになってしまって、その事実に恐れては悲しくなっている。
わたしが今いるような場所、それを伝える貴方にとって優しくて暖かい場所、
それを一度出ると決めた貴方にとって、こんな場所は戻ってくるべき場所じゃないんだ。
遠く離れたわたしのいない場所で、貴方が苦労しながらも元気でなんとかやっていることが本当は一番望ましいのだ。
「いつだって帰ってきていいのよ」
は与えられる側のための言葉じゃない、わたしのための言葉でしょう。
自分にとってさわり心地のいいものを閉じ込めるためにハハのように同じように
その言葉を使いたくはなかったのに。